犯罪率を下げたいなら、普通は法律を厳しくして、刑を重くするでしょう。
アメリカのリッチモンド警察署も、以前はそうだった。どこの警察もやっているように取締を厳しくしたが、結果はパッとしない。再犯率は六五%。若者の犯罪率も上昇していた。
そんなとき、ウォード・クラッパムという新しい署長が就任。
それまでのやり方を変えてしまう。
彼は問うた。
なぜ犯罪が起こるまで待たなくてはならないのか?
事後対応ばかりではなく、犯罪を未然に防ぐ取り組みはできないか。
彼はそこからポジティブチケット(善行切符)というアイデアを実行に移す。
たとえば、ゴミに投げ捨てずにゴミ箱に捨てる。バイクに乗るときはヘルメットをかぶる。スケートボードは決められた場所で乗る。学校に遅刻しない。そんなささやかな善行に対して、ポジティブな切符を切ることにした。
それを集めると無料で映画館などに入場できる引換券でもあった。若者たちに居場所を与えるという一石二鳥の意味も待った。
彼の試みは予想以上の成功を収める。
最初はなかなか変化がなかったが、長期的な戦略として投資を続け10年後には青少年の再犯率が60%から8%に激減した。
ある青年は車に惹かれそうになっていた少女を助けてポジティブチケットを手に入れた。
その場にいた警官は「君は素晴らしいことをしたね。君は立派なことができる人だ」と言った。
少年は家へ帰ると、ポジティブ・チケットを壁に飾った。
「何と引き換えるの」と母親がたずねると、少年は答えた。
「引き換えないよ、ずっと持っておくんだ」
警官に怒られたのではなくて、立派だと認められたことは、
映画をただで見ることができるよりも、彼にとって大きな意味を持っていたのだ。
さて、犯罪を犯す前に、悪い考えを共謀したやつらは、罰してしまえ・・・
という、どこかの国の法律とは、随分違う世界ではないでしょうか。