人の心は繊細にできていて、傷つきやすいのです。
自分がかけがえのない人として愛されて、周りの人が一緒にいたいと望んでくれていると、自分で感じていたり、また、好きな仕事や趣味に打ち込んでいるときには、心の中からエネルギーが湧いてきて、毎日が楽しく充実感もあるでしょう。
しかし反対に、人を引きつける魅力を失い、誰からも関心を持たれていないと思い、自分の存在価値を感じることができない時、その人の心は深く傷つきます。
その心の傷を慰めたくて、人はアルコールを飲んだり、テレビを見たり、あえて忙しく働き続けるのです。
心が傷ついてしまう理由を、もう少し掘り下げて考えてみましょう。
だれもが赤ちゃんだった
うまれつきうつ病だった人はいません。赤ちゃんは親から無条件に愛されているからです。
しかし、赤ちゃんが成長して反抗期を迎える頃になると、親も無条件でこどもを愛することは難しくなります。
親は親で自分の仕事に時間を取られて、子どもは、以前ほど親に愛されなくなったことを感じ始めるでしょう。
子どもの敏感で繊細な心は、傷つき始め、自分はもはや大事な存在ではないと思い始めます。
こどもがわざわざ親を困らせるようなことをするのは、親の気を引くためであることが多いのですが、むしろ親を怒らせるだけに終わり、子どもはますます親に嫌われたと思うのです。
子どもなんて、深く考えたり感じたりしないものだと、思っている人もいますが、それは間違っています。
子供の心は敏感です。嘘や不正をゆるせず、親からの愛情、優しさ、励ましを何よりも必要としているのです。
こどもを愛するとは、優しくするだけではなく、子どもたちの価値とかけがえのなさを教えることです。ともにいることを喜び、コミュニケーションを取り、受け入れ合うことです。
こういう愛情を子どもが求めているのに、それを満たすことのできない親や先生によって、子どもたちの心は傷つき、混乱と不安の状態に陥ります。
他に逃げ場のない子どもたちにとって、身近な家族や学校での人間関係が壊れた不安、孤独、恐れは大きく、自分自身に対する信頼を失ってしまうのです。
この心の痛みは、こどもたちには重すぎます。言葉にできません。なので、こうした感情を潜在意識に閉じ込めてしまうのです。
苦しすぎる感情を心の奥に閉じ込めて、ゲームや遊びに熱狂的になったりします。
親に賞賛されたい。苦しい感情を忘れて生き延びたいと、何かにしがみつくのです。
この心の闇は、その後の人生全体にわたって影響を及ぼし、その人の性格を決定します。
うつは、心の奥深くに埋もれたこれらの隠れた悲しみ、心の闇、自責の念、自信のなさ、などの結果です。
この潜在意識の奥にしまっておいた心の傷が、意識の上に浮かび上がってくると、身動きができなくなってしまうのです。
子どもの時に隠し、抑圧していた暗い感情を、うつ状態のときに再び体験することになります。
うつがどこからくるのかわからない人は、うつ病を恥ずかしい病気と思ってしまうかもしれません。
なぜ、こんな状態になってしまったのかと、自分をさらに責めてしまうかもしれません。
それは、傷ついている自分の心を、更に自分自身で傷つけていくことになるのです。
うつは自分ひとりでは治せません。
薬は対処療法であり、心の傷には効果は期待できません。
そのままの自分の存在を認められ、受け入れられる関係が
うつの治癒のために、必要なのです。