映画

大杉漣さんの遺作「教誨師」は「福音」だ

投稿日:2018年10月15日 更新日:

Free-Photos / Pixabay

 2018年2月に亡くなった、俳優の大杉漣さんの主演作であり遺作となった「教誨師」を観ました。

 この映画は、死刑囚と定期的に面談をする「教誨師」のボランティアをするキリスト教の牧師、佐伯を大杉漣が演じ、対する死刑囚の6人(古舘寛治、光石研、五頭岳夫、小川登、烏丸せつこ、玉置玲央)の一人一人との面会室での対話シーンだけで、おそらく90%以上が構成されるという、非常に特異な映画です。

にもかかわらず、最後まで緊張感が続き、ぐいぐいと引き込まれていく、牧師と死刑囚たちの深い対話、演技力に圧倒されました。

 牧師は当初、彼らとの面談において、彼らが自分の罪に向き合い、悔い改めて平安を得るようにという意図で、聖書の話を伝えようとするのです。

 しかしそのような上からの言葉は、彼らの心に全く届かず、むしろ、彼らによって、同じ土俵へと引きずり降ろされていくような対話の中で、牧師の内面が露わにされていき、過去の記憶が引き出されていく、意外な展開となっています。

 そして、その面会室で洗礼を受ける人。また冷徹に振る舞い続けた男が、突然おそいくる死刑執行の現実に、恐怖におののく姿。

 その現場に教誨師として初めて立ち会う牧師の葛藤。

 その一つ一つの出来事に、深く考えさせられ、感情を揺さぶられるシーンの末に、

 ラストシーンで、囚人から渡された一枚の紙に書かれていた一言の重み。

 それは、実に、死刑囚も牧師も映画を観ている人もなく、

すべての死にゆく人への問いかけと、

そして救いの「福音」として、深く心に響く一言。

 ぜひ、映画館で観てくださいね。

-映画

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

関連記事

映画「おくりびと」と「関係の癒し」と「福音」

 2008年公開の映画「おくりびと」は、当時 アメリカの第81回アカデミー賞 外国語映画賞や第32回日本アカデミー賞の「作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞・助演男優賞・助演女優賞・撮影賞・照明賞・録音 …

きっと、うまくいく

劇場公開日 2013年5月18日 2009年製作/170分/G/インド原題:3 Idiots配給:日活 映画館に観に行くのもいいが、アマゾンプライムで無料で見れる映画のなかで、ネットで評判の …

映画「否定と肯定」

「否定と肯定」という映画をみました。 これは実話に基づいた歴史映画なんですね。 1994年、アメリカのジョージア州アトランタにあるエモリ―大学でユダヤ人女性の歴史学者デボラ・E・リップシュタットがホロ …

世の「夫」必見 映画「今度は愛妻家」

最近、アマゾンプライムで観た映画。 「今度は愛妻家」2009年の作品です。 もとは演劇の作品だったものを、映画化したそうですね。 ほとんどの場面が家の中の出来事なので、劇場向きだと思いました。 それだ …

「father カンボジアへ幸せを届けた ゴッチャん神父の物語」をみて。出会いと別れの傷から実っていくもの

吉祥寺のココマルシアターで、「father カンボジアへ幸せを届けた ゴッチャん神父の物語」を観ました。 2015年、8月。カトリック神父・後藤文雄、愛称・ゴッちゃん(撮影当時86歳)のドキュメント。 …