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「焼肉ドラゴン」の物語の、本当の力

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saesherra / Pixabay

映画「焼肉ドラゴン」を観ました。
 
 1970年台の高度経済成長時代に生きる、在日朝鮮人の人々の暮らしを描いた物語です。
 
もともとは、2008年に日韓合同の演劇として鄭義信が創作したものを、同氏の監督で映画化されたものです。
 
鄭義信氏自身は在日3世ですが、日本の教育を受けた日本人としてこの物語を作ったと語っています。
 
在日というテーマは、描く人の立ち位置で見え方が違ってくることがあると思いますが、私の印象としては、鄭氏は、在日朝鮮人と日本人をつなげたいという思いを、この作品を通して描こうとしたのだと、感じています。
 
確かに、物語の中には、日本に対する批判を感じる部分が所々にあります。
 
かつて日本政府に徴用され、日本のために戦い片腕を失った朝鮮人の父が登場します。
 
また、息子が日本の学校でいじめにあい、自殺してしまうエピソードがあります。
 
最後には、国有地のバラックから立ち退かされることになります。
 
そういう、日本政府や日本人との関係の中で受けてきた、苦しみと痛みが、ところどころに表出されています。
 
確かにそれらのエピソードから、在日の人々が日本の中で受けてきた差別や、生きづらさに、日本人として気づかされることは、とても大切なことです。
 
ただ、もしこの映画が、日本に対する批判を、全面に押し出すような物語であったなら、メジャーな作品として、日本社会に受け入れられることはなかったでしょう。
 
むしろ、この物語のほとんどの部分は、在日も、日本人も、朝鮮人もなく、、
 
貧しい中にあって、精一杯生き、
 
喧嘩もし、人を好きになり、また失恋の悲しみに泣く。
 
そういう他愛のない日常が、明るく、切なく描かれていく物語なのです。
 
そして、そうであるからこそ、
 
むしろ、互いにレッテルを貼りたがり、
 
互いを見下して、自分のプライドを保とうとするような、
 
人間の愚かさへの強力なアンチテーゼとして、
 
心に届く物語であると、わたしは感じとったのでした。

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